相続で優先される「遺言書」でもコントロールできない権利『遺留分』とは?

以前の相続ブロブ「相続できる人」と「相続できない人」とは?の中で

「順番としては、遺言書がある場合は、原則として遺言書に従って相続をする
遺言書がない場合は、遺産分割協議書により相続することになります」

と、相続があると、亡くなられた方が自分の死後に財産などをどのように処遇してほしいかを
遺された人たちに伝えるツールであるのでまず「遺言書」に従って相続するとお伝えしました

しかし「遺言書」も万能ではなく、亡くなられた方の意思であってもコントロールできない権利があり
その権利のことを『遺留分(いりゅうぶん)』といいます

相続対策に取り組む中で『遺留分』は欠かせない問題です
どういう権利なのか?また、良いものなのか?悪いものなのか?など
最低限知っておくべきポイントを見ておきたいと思います

『遺留分』とは請求されたら金銭で払わなくてはいけない

『遺留分』という言葉は聞いたことはあるでしょうか?

『遺留分』とは簡単に言うと「特定の相続人が亡くなられた方の遺産を相続する最低限の取り分」です。

例えば、父がなくなり、相続人が配偶者と長男と次男の3人の場合です

初七日を過ぎたころ、長男が「遺言書」を持ってきて、その「遺言書」には「全財産を長男に相続させる」と書いてあった
配偶者は収入もなく家も相続財産の一つであるため、もし長男と不仲であれば無一文で住むところも無くなる
なんてことになると、どうなるでしょうか?大変ですよね

配偶者と2人兄弟で長男と次男がいる場合には
財産をもらえなかった配偶者や次男には遺産を「最低限の取り分を相続する権利」があり
それを請求する権利を『遺留分侵害額請求』(最低限の取り分を確保する方法)です

そのため、配偶者と次男が長男に対して『遺留分侵害額請求』をした場合には
「配偶者と次男の遺留分に相当する金額」を長男は支払わなければなりません

また、『遺留分』の割合は【図1】のように、ケースごとに決まっています
上記の場合だと、配偶者は相続財産の4分の1、次男は8分の1を必ず相続することができます

【図1】

そして『遺留分』の特徴として、令和元年の民法改正により変わった点で
「支払いは金銭」で行うこととなりました

それまでは、『遺留分』の請求があると、不動産や株式が共有状態になるとされていました。

経営者の方で共有状態になってしまうと、合意が取れないと共有が解消できないため、
事業承継等の弊害になっているというのが、金銭支払い変わった理由といわれています。

一方で、「『遺留分』を不動産で払いたい」などの場合には、
不動産を動かすことにかかる税金が増えてしまうため注意が必要です

日本では保有財産の内、不動産が多く占めていて
不動産にくらべ、金融資産が少ないという家庭が少なくありません

そのため、相続する財産のなかで不動産の価値が高い場合には、
相続でもらった金融資産では足りなくて、もともとの自身の貯蓄などからや
借金までして支払わないといけなくなる可能性もあります

支払い原資を準備する必要があるため
『遺留分』の対策は必要不可欠な問題であり、早くに取り組むべき対策です

また、『遺留分』は請求されたら必ず払わなくてはいけないものですが、
逆に、請求されない限りは、払う必要はありません

そのため、家族全員が遺言記載の分け方に納得していて、誰も『遺留分』を請求しないような場合には問題は発生しません

『遺留分』を良いものにするにも、悪いものにするのも、
どんな対策をとるか次第でどちらにでもなり得るといううことです

生前においての家族同士の意思の疎通や「遺言書」の作成はとても重要になります

『遺留分』が特に問題になりやすい環境とは

次に下記のような方々は『遺留分』について対策が必要になることが多く、問題になる可能性の高い環境です

①親が会社を経営していて子供のうちの一人が引き継ぐ
②親が賃貸不動産経営をしていて子供のうちの一人が引き継ぐ
③離婚をしていて前妻との間に子供がおり長年疎遠になっている

①と②のパターンは後継者である子どもに、多くの財産を引き継がせるかのことが必要になります

そのため「後を継ぐ子供」と「後を継がない子供」との間で相続する財産に差が生じやすく、
『遺留分』が問題になりやすい環境です

また、③の前妻との間に子供がいる場合にも『遺留分』の対策を早期に検討しておく必要がある環境です

前妻との間の子供も『父親の相続人』であり『遺留分』の権利を持つためです

上記は『遺留分』が問題となりやすい環境として挙げていますが、このケース以外でも相続人の間で、一般のご家庭でも相続させたい財産が偏る場合には『遺留分』について考える必要があります

例えば、一緒に住んでいる熱心に介護などを助けてくれた子供には、ほかの子よりもできるだけ多くの財産を相続させたいなどの場合も検討しておきたいですね

『遺留分』対策の注意点


『遺留分』がどのように計算されるか?ルールを知らないために間違った『遺留分』の対策をしてしまい、あとで大きな問題になることもあります

ここでは【知っておきたい『遺留分』計算のルール】を押さえておきたいと思います

①不動産の価額等は時価評価、つまり売った場合の価格にて計算をする
②相続人に対する贈与は10年前まで遡り遺留分計算の対象に含まれる
③『遺留分を侵害する目的で行なった贈与など』は10年の時効はなく遡り対象になる

「亡くなった時の財産が少なければ『遺留分』も少なくなる」と思い、高齢になって「財産を引き継がせたい相続人」に生前贈与をし財産を減らしたとしても、相続が発生してから10年以内の生前贈与『遺留分』の対象ということです

遺留分を減らす目的での贈与』と認定された場合には、生前贈与をしていた分の全てが遡って『遺留分』の対象とされ対策が逆効果になってしまうことも考えられます

一部分の知識で良かれと思って行なった対策が結果、あとで残された相続人が思わぬトラブルに巻き込まれることも少なくありません

そのためご自身で勉強する姿勢はとても良いことですが、自分達だけで考えて対策をするのではなく専門家に相談して、「ご自身でできるもの」と「専門家に任せること」を分けて理解しそのうえで対策の実行されることをオススメします

実際どうやって対策すればいいのか、どういった対策があるのか?
ということについて以下のような、代表的『遺留分』対策について「うまくいく活用のポイント」や「間違えると大きな問題になってしまうポイント」などを改めてお伝えをしていきたいと思います

『遺留分』対策とポイント
Point01「遺言書」を作る「付言事項」を付ける
Point02「生命保険」「死亡保険金」の活用
Point03『遺留分』の放棄の手続き
Point04「養子縁組」の活用
Point05 民法の特例による「固定合意」「除外合意」

まとめ

相続で優先される「遺言書」でもコントロールできない権利『遺留分』とは?について
どういう権利なのか?また、良いものなのか?悪いものなのか?など
最低限知っておくべきポイントを見てきました

『遺留分』とは請求されたら金銭で払わなくてはいけない
『遺留分』が特に問題になりやすい環境とは
『遺留分』対策の注意点

【知っておきたい『遺留分』計算のルール】
①不動産の価額等は時価評価、つまり売った場合の価格にて計算をする
②相続人に対する贈与は10年前まで遡り遺留分計算の対象に含まれる
③『遺留分を侵害する目的で行なった贈与など』は10年の時効はなく遡り対象になる

しっかりルールを押さえて、早めに適切な対策が準備できていることで
残された相続人の中で不要な争いや苦悩が生じることのなく
楽しい人生を送っていただける『ミライふくろう(未来不苦労・福来朗)』になることができます

この記事を書いた人

吉政和彦

吉政和彦

大学卒業後、商社及び外資系金融機関に勤務。
2019年、会社経営者らに「会社や個人にトコトンお金を残す専門家」として、財務・税務・相続等のコンサルティングを行うa-office YOSHIMASAを開設。現在、ニーズの高まりを受け、相続コンサルティングに力を入れている。「相続の通訳」という立ち位置で、相続に強い士業など専門家と連携。相続税、遺産相続、実家の空き家対策など、相続全般に関する悩みや不安の解消をサポートしている。